小さな会社の消費税についてです。10月1日から消費税の増税やその後に令和5年度からのインボイス制度といった改正が入るタイミングで、税務リスクが高まっているので理解していただく趣旨で記事を書いています。
小さな会社とは、個人事業を節税や見栄えのために会社にしたような事業運営であったり、NPOなどの非営利法人格を取得していて、大きな利益が出る事業でないので税金に気を配っていない会社です。
赤字決算の会社でも、税金については最低限しか払わないので、税理士と顧問契約を結ぶまでもなく、決算だけを税理士にお願いしている法人もあると思います。
このような小さな会社の決算料で、当方は消費税申告が含まれる場合には5万円~の追加費用と、期中取引についてチェックをしなければならない実費請求をお願いしています。
実は、税理士にとって、消費税の実務はとてもハイリスクな厄介なものです。できればこれだけお断りしたいがそうもいかない・・。
「いやいや、そんなことを税理士が言っても、会計ソフト、例えば「会計freee」の「決算」の表示メニューを見ると「消費税申告書の作成」という項目があり、ボタンを押せば申告書が出てくるじゃないのか。」
そういう風に考えられがちなのでしょうが、それだけに期待ギャップが大きい。
消費税は税理士に多くの損害賠償事件を及ぼす非常に恐ろしい税目で、日常的な仕訳で以下の項目を間違えると納付税額を大幅に誤ります。
1.課税区分や簡易課税の事業区分
2.消費税関係の届出の実務
3.税率の間違い
消費税の納付額は、単純に言えば「預り消費税」から「仮払消費税」を差し引いた総額を調整するものですが、例外がいくつもあります。
例えば、非課税売上(土地や有価証券)の割合が5%を超えると、控除対象消費税の按分計算が必要になり、その方法は原則方式や一括比例配分方式といった方法についてどれが有利か判定して決めます。
また、輸出入や海外取引の扱い、NPOや医療法人のような非営利特例、多額の投資した場合、非課税売上割合の増減率が高い場合の還付もれ、更には売上5000万円以下の場合の簡易課税制度・・・などなど。どれも税額を大幅に動かす制度です。
更に、簡易課税適用の場合は「簡易だから簡単なんでしょ?」と思われてしまうと、事業区分の判定という税務判断を間違えてしまうと税額が過小又は過大になりますから、本当にリスク大です。簡易課税なんて、できればやりたくないのが本音です。
簡易課税のケースでは、ある会社でこんな事例がありました。
その会社は10年以上前に簡易課税をしていましたが、やがて売上が伸びて売上が5000万円以上になり、原則課税となっていました。
その際、「簡易課税の選択不適用届」を出し忘れていたのです。と、いうか税理士を顧問に付けていない法人ではほぼ、このようなA4で1枚の届出書の存在について知らずにスルーしていますよね。
この会社はその後、社長が引退し不動産収入だけの資産管理会社に移行しました。
そして、基準期間の課税売上高が5千万円以下になり、収益物件を購入して2億円の修繕工事を行いました。
仮払消費税は8%なら、1600万円です。
ここで「簡易課税の選択不適用届」が提出されていないので、このケースでは自動的に簡易課税制度が適用されてしまい、原則課税が適用できないことになります。
そして、簡易課税の場合には実際に支払った仮払消費税を計算して還付請求ができないので、たった1枚の届出書の提出を10年前に忘れていただけで1600万円の税負担が生じました。
当該社長は、不動産コンサルに税還付を含めた収益計算をされていたのですが、いざ還付請求しようとしたら税務署に認められず、10年前から消費税の税目を含む税務顧問と申告をしていた税理士に、損害賠償です。
事件の原因は担当職員が変わっていて引き継がれていなかったのかもしれません。また、そもそも税理士を頻繁に変えているような法人では誰も責任を取りません。納税者がただ損をするだけです。
このようなケースばかりでなく、非常の多岐にわたるケースでの損害賠償事件が頻発するのが消費税という税目の特徴です。
さて、10月1日からはこのようにハイリスクな消費税について、8%から10%になり、さらに軽減税率という厄介な判定が取引毎に生じます。
消費税は会計事務所の労力の面でも、リスクの面でも、割に合わない税目です。本当はもっとリスク対応費用を頂きたいのですが、クライアントの理解とのギャップがあり、相場があるので5万円の決算料追加です。
消費税は過去の3%から5%、そして8%へと変遷してきていて次は10%。そうするとリスクは5%の時の倍になります。ですが、決算料の相場は、納税者の皆さまがインターネットで次々と熾烈な相見積をとるので、そうした市場環境もあり下がる一方です。これは頭が痛い課題で、これ以上安いと職員一同で真面目に研修して勉強する時間が確保できません。
小企業で赤字なので決算だけをお願いされたとしても、例えば会計freeeで自動作成した消費税申告書を無修正で使えたことなんて一度もないという現実をどうぞご理解ください。そして税制改正を期にこの労力とリスクは高くなっており税理士が根拠のない請求をしている訳ではないのです。
消費税の税務申告書の作成料として、追加費用をお願いする理由について少しでもクライアントにご理解をいただきたいとの思いで書かせていただきました。